DARPAロボティクス・チャレンジに日本も参加を!ヒト型ロボットの第一人者インタビュー
DARPAロボティクス・チャレンジについて、Wall Street Journal日本版のロボット・コラムで書きました。これは非常に重要な話なので、ぜひご覧になってください。
このコラムのために、ヒューマノイドの世界的権威である、井上博允・東京大学名誉教授とコンタクトを取りました。コラムの中でコメントを使いましたが、質問のやり取り全文を、ご本人の了承を得たうえで、以下に掲載します。(赤字はGetRoboが強調するべきだと思った部分です。)
Q1.なぜこのようなプロジェクトが日本主導で立ち上がらなかったのか。
A1. 当然、日本が立ち上げなければならないと思い、しかるべき所に話を持って行って努力した。しかし、みんな原発事故の当面の対策で頭がいっぱいで、その重要性を認識してもらえていない。おそらく、決定できない、リスクをとらない日本社会が原因だと思う。私はこの問題は、世界が挑戦しなければならない課題だと思ったので、昨年11月のDLRのシンポジウムで講演する機会があった際に、「Grand Challenge: Send a Humanoid into Severe Environment to Work as Human Agent」という国際協調プロジェクトの提案を行なった。講演後のアメリカやヨーロッパにおける反応と比べると、案の定、日本の反応は弱かった。
月にヒューマノイドを送る計画に関する政府の懇談会でも、新しい宇宙基本計画の目的が宇宙科学に加えて新産業創成と国家安全保障という3本柱になったのだから、技術開発のシンボルにもなるし、開発した技術を原子力発電所にも適用可能であるという位置付けからも、大きな意義があると説明した。しかし、懇談会では理解が得られなかった。
一方、米国ではすぐにNASAがこの提案にエコーして、「プロジェクトM」なるものを打ち出した。「プロジェクトM」も結局は予算がつかずに立ち消えになったが、それでもこのプロジェクトの計画書に「The nation that leads the industry of robotics, the nation that designs, produces, and markets, will dominate the global economy in this century.(ロボットを設計、生産、マーケティングし、ロボット産業をリードする国こそが、今世紀に世界経済で優位に立つ)」と書かれていたのが印象深い。日本はその後、はやぶさフィーバーと震災で、すっかり月開発は忘れ去られた。おそらく日本の技術者も政策担当者も、この文言に気をとめている人は少ないと思う。
昔話になるが、日本が高度成長の時代には、このような言葉に沢山の人が反応した。ところが、すっかり社会が変わってしまったのか、今はだれも反応しなくなっているように感じる。アメリカとヨーロッパ、そして、韓国の人は今でもこれに反応する人が多いと思うのだが。
Q2.このプロジェクトに日本から参加があることを期待しているか。
A2. 当然、参加すべきだと思う。予想外に早くDARPAが計画を立ち上げてくれた今、日本は参加しなければ、技術面でも世界に追い越されることは目に見えている。
せっかくDARPAが良い計画を実行に移してくれたのだから、世界のヒューマノイドを牽引してきた日本としてはDARPAにエコーバックしなければならないと思って可能性を探っている。しかし国内の壁は厚い。参加しないための言い訳としてナイーブな軍事予算尻込み論に陥るのではなく、自信があればトラックAでもBでも応募してみるべきだし、DARPAの予算を避けたいのであればトラックCでもDでもやるべきだ。Urban Challengeが無人自動車を実用化したように、今回のロボティクス・チャレンジを通じて3年後にはヒューマノイド技術の世界標準が明確になる。リスクをとって挑戦する日本チームが必要だし、そのための財政支援が不可欠だ。
DARPAが計画を発表してからすぐに、博士号を取得したばかりの若手研究者が私のところにやってきて、企業や研究組織では束縛が強いので、現在の職を辞めて自分たちの会社を作ってロボティクス・チャレンジに参加したいと言ってきた。彼らはトラックAかDに参加して自己技術で勝負したいので、5億円位を投資してくれるところを探していると言う。彼らは自分の将来をかけて、リスクをとって挑戦する仲間だけでやりたいと言う。頼もしい話であり、荒削りながら技術は持っている連中である。日本の産業が再生するのに必要なのは、このような若者のチャレンジに投資し、彼らのチャレンジの足を引っ張らない社会を作ることだ。ベンチャーキャピタルや商社、異業種で技術開発に投資する意欲のある企業、私的ファンドなど、日本の技術立国のために投資してくれるところがあれば、私は彼らとの仲立ちをしたい。なんとかしなければならないと思っているので、リスクをとって決断できる企業経営者、政策立案者、技術者を求めて、私は行動したいと思う。
Q3.福島という現実問題を抱えている日本が、こうした架空の「競技」に参加することに対してはどう思われるか。このプロジェクトを福島のリアルの問題と関連付けることはできないのか。
A3.これは架空の競技ではない。我々が福島から学んだことは、電源喪失後の予期せぬ緊急事態が起きても、被害を最小限にとどめるような技術的な備えをしなければならないということだ。私のDLRでの提案にしてもDARPAのチャレンジにしても、人の代理として人間が行けない所に入って行って作業するロボットとして、限りなく人に近い機械が必要である。競技と銘打っても、実際は非常に厳しい技術の切磋琢磨の場であり、参加者の最先端の技術力が白日のもとにさらされる。DARPAの課題1から8までの内容は、最初のチャレンジとしては可能なレベル設定である。その後、逐次に高度化すれば、福島のようなリアルの問題にも対応できると理解すべきである。
これをロボコンやロボカップと同列の競技ととらえてはならない。災害対応はヒト型ロボットのキラー・アプリケーションであるととらえるべきであり、米国はこのキラーアプリの必要性を国家レベルで認識し、それを産業創生に結びつけたというのが今回のプロジェクトの真意。ヨーロッパもそうするだろうし、日本も早くそのように認識して欲しい。日本が挑戦しないことは、最初から技術競争に敗北したことを意味する。産業技術にも波及するので、参加しないわけには行かない。世界のどこかで過酷事故が起こった時、直ちに提供できるヒューマノイドを準備しておきたいと思いませんか。