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2012年5 月21日

Open Source Robotics Foundationという新しい団体に注目

Open Source Robotics Foundation(OSRF)という新しい非営利組織が3月に立ち上がった。これはもともとはWillow Garage社のアイデアで、同社が開発を先導しコミュニティーを形成してきたロボット開発用ソフト「ROS」の、今後の開発を引き継ぐための団体として設立準備が進められた。

ところが、OSRFが世間に公になったのは、4月10日、DARPAのロボティクス・チャレンジが発表になった日だ。なぜならば、OSRFがロボティクス・チャレンジで大きな役目を担っているからだ。

先日、WSJ日本版のコラムでも触れたが、ロボティクス・チャレンジでは、定められた課題をこなすロボットだけでなく、シミュレーターの開発に大きな期待が寄せられている。DARPAは次世代ロボットの市場創出を阻んでいる1つの要因が設計ツールの不備にあると考えていて、今回チャレンジのために開発されるシミュレーターがその突破口になると期待しているのだ。DARPAプログラム責任者のギル・プラット氏はこのシミュレーターが、「半導体産業の興隆につながった電子回路のシミュレーション・ソフト『SPICE』」同様に重要なカギを握るようになる」と語っている。

DARPAからこのシミュレーターの開発委託を受けたのがOSRFだ。「Gazebo」というオープンソースで、マルチ・ロボットの3次元シミュレーション・ソフトが土台になる。もともとは南カリフォルニア大学の研究者たちが開発し、後にROSのコミュニティーに採用されてから、一躍、知名度があがったものだ。OSRFはDARPAから資金提供を受け、ロボティクス・チャレンジの競技で使われるシミュレーション・ソフトを開発する。実際、求人もしている

DARPAがこのように重要視しているシミュレーターに、オープンソースのものが選ばれた点が興味深い。

そしてOSRFをリードするメンバーを見るとさらに興味深い。

☆まずはWillow GarageのBrian Gerkey氏が同社を退社し、OSRFのCEOに就任する。Gerkey氏はROS開発の中心人物。これはROSの開発がほぼ全面的にOSRFに移行することを意味し、Willow Garageが第3フェーズに突入することを示唆する。それがどういうフェーズになるのか、これから取材したい。

☆アイロボットの共同創業者のHelen Greiner氏が取締役に就任している。Greiner氏はもうアイロボットを退社し、新ベンチャーを立ち上げているが、アイロボットのもうひとりの共同創業者で、現CEOのコリン・アングル氏が、常々、ロボット分野におけるオープンソースの動きに否定的な見解を示している点から興味深い。

☆韓国のYujin Robotの幹部(Sam Park, executive vice president)が取締役となっている。Yujin Robotといえば、NECのPaperoに似たロボット「iRobi」を製品化している会社。掃除ロボットも売っている。そして同社はこのほど、Willow Garageの開発用ロボット「TurtleBot」の新バージョンで協力していることが明らかになった。TurtleBot1はアイロボットのCreateを土台にしていたのに対し、TurtleBot2はYujin社のロボット「Kobuki」をベースに使うというのだ。(IEEE Automatonの記事が詳しい。)TurtleBotはWillow Garageとアイロボットが仲良くなるきっかけになるのかなと思いきや、こういう展開になるとは。

DARPAロボティクス・チャレンジでハードを提供するBoston DynamicsのMarc Raibert社長も、学会で講演した際に「ロボットでオープンソースなんて聞くと気味が悪くなる」と言っていたので、「オープンソース派」対「反オープンソース派」は「米国西海岸」対「米国東海岸」の構図なのかな、と思っていた。しかし、今回、Greiner氏がOSRFに加わったこと、それから、もう1人のアイロボット共同創業者、元MIT教授のRodney Brooks氏が設立したHeartland Robotics社がROS開発者会議「ROSCon」のスポンサーになっていることから、そういうわけでもなさそう。

ロボティクス・チャレンジではBoston Dynamicsのハードとオープンソースのシミュレーターが組み合わせて使われるので、なんだかとってもおもしろいな、と思ったしだいです。

2012年4 月18日

DARPAロボティクス・チャレンジに日本も参加を!ヒト型ロボットの第一人者インタビュー

DARPAロボティクス・チャレンジについて、Wall Street Journal日本版のロボット・コラムで書きました。これは非常に重要な話なので、ぜひご覧になってください。

このコラムのために、ヒューマノイドの世界的権威である、井上博允・東京大学名誉教授とコンタクトを取りました。コラムの中でコメントを使いましたが、質問のやり取り全文を、ご本人の了承を得たうえで、以下に掲載します。(赤字はGetRoboが強調するべきだと思った部分です。)

Q1.なぜこのようなプロジェクトが日本主導で立ち上がらなかったのか。

A1. 当然、日本が立ち上げなければならないと思い、しかるべき所に話を持って行って努力した。しかし、みんな原発事故の当面の対策で頭がいっぱいで、その重要性を認識してもらえていない。おそらく、決定できない、リスクをとらない日本社会が原因だと思う。私はこの問題は、世界が挑戦しなければならない課題だと思ったので、昨年11月のDLRのシンポジウムで講演する機会があった際に、「Grand Challenge: Send a Humanoid into Severe Environment to Work as Human Agent」という国際協調プロジェクトの提案を行なった。講演後のアメリカやヨーロッパにおける反応と比べると、案の定、日本の反応は弱かった。

月にヒューマノイドを送る計画に関する政府の懇談会でも、新しい宇宙基本計画の目的が宇宙科学に加えて新産業創成と国家安全保障という3本柱になったのだから、技術開発のシンボルにもなるし、開発した技術を原子力発電所にも適用可能であるという位置付けからも、大きな意義があると説明した。しかし、懇談会では理解が得られなかった。

一方、米国ではすぐにNASAがこの提案にエコーして、「プロジェクトM」なるものを打ち出した。「プロジェクトM」も結局は予算がつかずに立ち消えになったが、それでもこのプロジェクトの計画書に「The nation that leads the industry of robotics, the nation that designs, produces, and markets, will dominate the global economy in this century.(ロボットを設計、生産、マーケティングし、ロボット産業をリードする国こそが、今世紀に世界経済で優位に立つ)」と書かれていたのが印象深い。日本はその後、はやぶさフィーバーと震災で、すっかり月開発は忘れ去られた。おそらく日本の技術者も政策担当者も、この文言に気をとめている人は少ないと思う。

昔話になるが、日本が高度成長の時代には、このような言葉に沢山の人が反応した。ところが、すっかり社会が変わってしまったのか、今はだれも反応しなくなっているように感じる。アメリカとヨーロッパ、そして、韓国の人は今でもこれに反応する人が多いと思うのだが。

Q2.このプロジェクトに日本から参加があることを期待しているか。

A2. 当然、参加すべきだと思う。予想外に早くDARPAが計画を立ち上げてくれた今、日本は参加しなければ、技術面でも世界に追い越されることは目に見えている。


せっかくDARPAが良い計画を実行に移してくれたのだから、世界のヒューマノイドを牽引してきた日本としてはDARPAにエコーバックしなければならないと思って可能性を探っている。しかし国内の壁は厚い。参加しないための言い訳としてナイーブな軍事予算尻込み論に陥るのではなく、自信があればトラックAでもBでも応募してみるべきだし、DARPAの予算を避けたいのであればトラックCでもDでもやるべきだ。Urban Challengeが無人自動車を実用化したように、今回のロボティクス・チャレンジを通じて3年後にはヒューマノイド技術の世界標準が明確になる。リスクをとって挑戦する日本チームが必要だし、そのための財政支援が不可欠だ。

DARPAが計画を発表してからすぐに、博士号を取得したばかりの若手研究者が私のところにやってきて、企業や研究組織では束縛が強いので、現在の職を辞めて自分たちの会社を作ってロボティクス・チャレンジに参加したいと言ってきた。彼らはトラックAかDに参加して自己技術で勝負したいので、5億円位を投資してくれるところを探していると言う。彼らは自分の将来をかけて、リスクをとって挑戦する仲間だけでやりたいと言う。頼もしい話であり、荒削りながら技術は持っている連中である。日本の産業が再生するのに必要なのは、このような若者のチャレンジに投資し、彼らのチャレンジの足を引っ張らない社会を作ることだ。ベンチャーキャピタルや商社、異業種で技術開発に投資する意欲のある企業、私的ファンドなど、日本の技術立国のために投資してくれるところがあれば、私は彼らとの仲立ちをしたい。なんとかしなければならないと思っているので、リスクをとって決断できる企業経営者、政策立案者、技術者を求めて、私は行動したいと思う。

Q3.福島という現実問題を抱えている日本が、こうした架空の「競技」に参加することに対してはどう思われるか。このプロジェクトを福島のリアルの問題と関連付けることはできないのか。

A3.これは架空の競技ではない。我々が福島から学んだことは、電源喪失後の予期せぬ緊急事態が起きても、被害を最小限にとどめるような技術的な備えをしなければならないということだ。私のDLRでの提案にしてもDARPAのチャレンジにしても、人の代理として人間が行けない所に入って行って作業するロボットとして、限りなく人に近い機械が必要である。競技と銘打っても、実際は非常に厳しい技術の切磋琢磨の場であり、参加者の最先端の技術力が白日のもとにさらされる。DARPAの課題1から8までの内容は、最初のチャレンジとしては可能なレベル設定である。その後、逐次に高度化すれば、福島のようなリアルの問題にも対応できると理解すべきである。

これをロボコンやロボカップと同列の競技ととらえてはならない。災害対応はヒト型ロボットのキラー・アプリケーションであるととらえるべきであり、米国はこのキラーアプリの必要性を国家レベルで認識し、それを産業創生に結びつけたというのが今回のプロジェクトの真意。ヨーロッパもそうするだろうし、日本も早くそのように認識して欲しい。日本が挑戦しないことは、最初から技術競争に敗北したことを意味する。産業技術にも波及するので、参加しないわけには行かない。世界のどこかで過酷事故が起こった時、直ちに提供できるヒューマノイドを準備しておきたいと思いませんか。

2012年4 月17日

欧州チームがDARPAロボティクス・チャレンジに参加表明

REEM BDARPAがロボティクス・チャレンジを正式発表してから1週間。早速、欧州のチームが参加に名乗り出た。LinkedInのPersonal Robotics Groupを通じて、メンバーに「チームを作ったので、仲間に加わらないか」と呼びかけていることから知った。

このチームのリーダーはDavide Faconti氏。Pal Roboticsでヒューマノイド・ロボットの「REEM」シリーズを開発しているグループの中心人物だ。新チームのサイトのFAQのページを見てみると、「Pal Roboticsはチャレンジには直接関与しておらず、参加しないが、必要に応じて技術用具を提供するかもしれない」と書いてある。「REEM-B(写真)はチャレンジのゴールを達成できないと思う」と自覚しながら、「でもREEM‐Bが開発されたのは5年前。それ以来、多くを学び、もっとできることは分かっている!」と記している。

チームは、DARPAの書類審査に合格して予算を獲得したうえで独自のシステムを開発する「トラックA」での参加を希望している。すべてのハードとソフトをオープンソースで公開する予定だ。

2012年4 月11日

ヒト型ロボットPETMAN、階段を上る

DARPAが今日公開したPETMANの最新ビデオ。動画の最後の部分で、これをRobotics Challenge向けに適応させると書いてある。昨日書いた記事の中で「GFE(Government Furnished Equipment、政府供給器具)」のことを指しているのだろう。

脚はともかく、右腕で体を支えているところがなんかぞくっとくる。

Robotics Challengeのルール(以下抜粋)では、テザーはなしが原則だが、競技で使う業務用車に乗せたenergy store, power converter,または heat dissipaterにテザーでつながっているのは認める、と書いてある。

To provide maximum mobility, the robots would be tetherless during the competition. But robots that are tethered to an energy store, power converter, or heat dissipater carried by the utility vehicle are acceptable. If a tether is used, the tether must be managed without human intervention. Because tethers already limit mobility, there will be no scoring penalty for the use of a tether.

2012年3 月 5日

時速29kmで走る世界最速のチーター型ロボット

昨年2月に開発が明らかになった、Boston Dynamicsのチーター型ロボット。今日、その成果の動画が初公開された。

時速18マイル(約29km/時)。たったの1年でここまでくるとはものすごいスピードで開発が進んでいる。

4足ロボットのこれまでの世界記録は時速13.1マイル(1989年、CMUの学生が@MITで行った成果)だったという。

YouTubeに掲載された説明を以下に抜粋。

The robot's movements are patterned after those of fast-running animals in nature. The robot increases its stride and running speed by flexing and un-flexing its back on each step, much as an actual cheetah does.

意訳:ロボットの動きは、自然界にいる俊足の動物のものを真似している。ロボットは本物のチーターのように、背中を曲げたり伸ばしたりすることで走り幅と速度を上げて行く。

The current version of the Cheetah robot runs on a laboratory treadmill where it is powered by an off-board hydraulic pump, and uses a boom-like device to keep it running in the center of the treadmill. Testing of a free-running prototype is planned for later this year.

チーター・ロボットの現バージョンはラボの中のトレッドミル(ルームランナー)上を走っており、外部の油圧ポンプによって動力を供給されている。また、トレッドミルの中央を走り続けられるよう、ブームのような支持装置を使っている。(支持棒のない)自由に走れるプロトタイプの試験が今年中に計画されている。

While the M3 program conducts basic research and is not focused on specific military missions, the technology it aims to develop could have a wide range of potential military applications.

M3プログラム(Maximum Mobility and Manipulation)は基礎研究であり、特定の軍事ミッションに的を絞っていないが、開発を目指している技術は、潜在的に広範囲な軍事アプリケーションに応用できる可能性がある。

また、Marc Raibert社長がメールで送ってくれたBoston Dynamicsのプレスリリースによると、新ロボットは、俊足動物の専門家であるRoyal Veterinary College(ロンドン大学獣医学部)のAlan Wilson教授との共同研究による成果だ。

これって重さどれくらいなのかな。ちなみに本物のチーターは最高時速が100kmを超えるというが、疲れるので長くは続かない。ロボットの持続力はどれくらいなのだろうか。

って、ちょうど考えていたところでRaibert社長からメールをいただいたので、質問してみたら、以下の答が返ってきた。(お返事をありがとうございます。)

"The robot weighs 150 lbs (68 Kg).  The robot has run on the treadmill for several minutes at a time, but the top speed part of the run was about 5 seconds.   That was last Thursday.  We expect to get longer runs (and faster runs) in the days ahead."

「ロボットの重さは150パウンド(68キログラム)。ロボットは一回ごとにトレッドミルを数分間走ることができるが、トップスピードの部分は約5秒間。それが先週の木曜日だった。今後、もっと長く、もっと速く走れるようになると見込んでいる。」

DARPAは最近、ロボット関連の研究成果をYouTubeで広めるのに積極的。